交通事故で知っておきたい法律

示談交渉のすすめ方

■示談とは

交通事故の解決=損害賠償金の問題を解決することです。当事者が話し合いで賠償責任の有無やその金額、支払い方法などを決めます。交通事故のほとんどが示談で解決されています。

■示談交渉の相手

一般的に、加害者の代理として保険会社の交渉担当者が示談にあたります(示談代行)。加害者(保険会社)側から、支払うことの出来る賠償額を先に提示してくることがほとんどです。保険会社も営利団体なので、自賠責保険の枠内でおさまる金額や、その会社の基準によるシビアな金額を出してきます。

提示された賠償額に納得できなければ、示談成立に向けて交渉が続けられることになります。また、加害者の勤務先の事故係担当者が交渉にあたる場合もあります(バス会社やタクシー会社など)。

いわゆる「示談屋、事件屋」と呼ばれる人が出てくるケースもありますが、本当に示談交渉を行う代理権があるのか、加害者自身の委任状を持っているかを確認することも大切です。

■示談は急がない

人身事故の場合は、示談を開始する時期は特に慎重でなければなりません。

一度示談が成立すると、原則やり直しはできません。(が、示談時には予測できなかった症状が生じた場合、示談により一旦は請求額の放棄を認めていても、再度請求することは可能なので、諦める必要はありません。)

交渉を始めるのは損害が確定してから、つまり、ケガを完治するか症状が固定してから(医師の診断を待ってから)にするべきです。

加害者に刑事責任が問われている場合には、刑を軽くしたり情状酌量を得るために、示談成立を急かしてくることがありますが、応じる必要はありません。

また、治療費等の不足で困った場合にも、自賠責保険の仮渡金制度を利用すれば、賠償金を得るために示談成立を急がなくてもすみます。

■示談の成立

当事者間で示談が成立すると、「示談書」を作成します。

(その後、保険金を請求する場合に必要な書類になります。)

交渉に不慣れで自分の言い分をうまく伝えられなかったり、分からないことがあれば、相談機関を利用して、弁護士などの専門家に手助けしてもらうようにしましょう。

示談がまとまらなかった場合、裁判所の手を借りて調停・訴訟などで解決することになります。

示談のための準備

■被害者が自分で損害賠償額を試算してみる

まず、事故の状況を正確に把握しておく必要があります。そして、要求すべき損害額を自分で出してみることです。交通事故の損害賠償額は定型化・定額化が図られています。計算することで、賠償額の根拠も理解でき、何も分からないまま交渉に臨んで相手の言いなりになることを防ぐことができます。

■必要な書類をそろえる

損害賠償額を試算することで、どんな資料を入手しなければならないかが分かってきます。

それらは示談交渉の際にも必要となる書類です。

被害者にとって重要なのは、収入の証明と過失の証明になります。特に、収入減の証明は被害者自身で書類をそろえなければなりません(源泉徴収票や税務申告書など)。

事故状況の証拠となる資料(メモや写真など)も、残っていればそろえておきましょう。

また、示談交渉を開始する前に、交通事故の相談機関を利用してみるのもいいでしょう。

 

示談書を作るときのための注意

■示談書の作成

示談内容に合意できれば、同じものを2通作成して、加害者・被害者が署名、捺印した上でそれぞれ保管します。

とくに書式はありませんが、通常保険会社が用意している定型のものを使うといいでしょう。公正証書にしておくと、示談金の不払いや約束違反があった場合に支払いを確保(強制執行で取立てが可能)できます。

■示談書の記載項目

加害者・被害者・自動車保有者/事故の日時と場所/加害車両と被害車両の車種及び車両番号/被害状況/示談内容と支払方法/示談書の作成年月日

■請求権放棄条項

「(被害者は)その余の請求を放棄する」等の記載がなされます。

■清算条項

「本示談書に定めるほか、当事者間に何らの債権債務のないことを確認する」等の記載がなされます。

■権利留保条項

示談書作成後に後遺症が発生した場合にそなえて、追加請求ができることを明確にします。

「万一後遺症が発生した場合は、その損害につきあらためて協議する」等。

※示談時に、全く予想できなかった後遺障害については、示談成立後も請求できることがありますが、早期解決目的にも資するため、「留保条項」を入れることが、実務上よく行われています。

■支払確保の条項

通常は、任意保険会社が支払いを担当することになるので問題ありませんが、支払期日と遅滞した場合の定め(示談金の分割払いの場合の期限の利益喪失の約定)をしておくのがよいでしょう。

「甲が前条の支払を怠ったときは、甲は、乙に対し、第〇条の金員から既払金を控除した残額及びこれに対する平成〇年〇月〇日から支払済みまで年〇%の割合による遅延損害金を直ちに支払う」等の記載がなされます。

なお、加害者(任意保険会社)からの治療費の支払いが途中で止まり、被害者がその支払いをしていない場合に、未払い治療費をどちらが支払うかは明確にしておく必要があります。

被害者は、示談交渉が終わっても金銭の受領がすむまでは、領収書を出したり、示談書の中に「領収済み」などの文言を入れないようにするのが賢明です。

また、加害者の加入保険の内容や、損害賠償を支払うだけの資産の有無を確認しておくことも大切です。たとえ賠償金額は譲歩しても示談を成立させる方が、被害者が不利益にならない場合もあります。そのあたりの判断は専門家に相談するのがいいでしょう。

 

後遺症が残ったとき

後遺障害が残った場合に、それまで通りの仕事が続けられず収入が減少するなど、被った損害については「免失利益」と「慰謝料」として請求できます。これは、通常の傷害事故に対する損害賠償に加算して賠償されることになります。(自賠責保険の場合、傷害事故の120万限度額とは別枠で支払われます。)

■後遺障害の認定

傷の治療は終わっても、手足の切断や失明などの傷害、症状がそれ以上改善せず固定してしまうなど、後遺障害として認定してもらう必要があります。医師からもらった診断書を添えて保険会社に「後遺障害等級認定申請」を行うと、損害保険料率算出機構によって調査、後遺障害の等級が認定されます。等級によって賠償額が決まってきます。認定内容に疑問、不服があるときは、保険会社に異議申し立てができます。専門医も参加する審査を改めて受けることができます。さらに、紛争処理機構に調停を申請することも可能です。

■免失利益

後遺障害が残ったため、従前の労働能力の一部または全部を喪失し、その結果、得ることができた利益を喪失したことによる損害をいいます。あと何年働けたかを基準にして(労働能力喪失期間)、算定します。

収入(年収)×労働能力喪失率×ライプニッツ係数(労働能力喪失期間に対応)

・就労可能期間の周期は、げんそくとして67歳とされています。被害者が比較的年長の場合は、67歳までの年数と平均余命年数(簡易生命表による)の2分の1のいずれか長い年数をとります。

・労働能力喪失率は、労働能力喪失率表に基づいて、後遺障害の等級に応じて評価されます。

・「中間利息の控除」将来受け取るはずの収入総額を現時点で一度にもらうことになるので、将来に生ずるであろう利息分を差し引きます。ライプニッツ方式の計算で、係数をかけることで算出できます。

自転車と歩行者の場合

自転車同士の事故や自転車と歩行者の事故は年々増えています。車との事故では、自転車は弱者としてとらえられがちでしたが、対歩行者の事故では加害者になることが多くなっています。

■自転車は”軽車両”(道路交通法)

道路交通法の規制を受けます。免許制度はありませんが、車両と運転者としての義務は四輪車やバイクなどと変わりません。事故を起こせば、警察に通報する義務があり、損害賠償や慰謝料などの民事上の責任も問われます。そして、交通違反を犯した場合には、刑事上や行政上の責任も問われます。自転車同士の事故や自転車と歩行者の事故で相手を死傷させた場合、加害自転車に重過失が認められれば、重過失傷害罪(5年以下の懲役もしくは禁固または、50万円以下の罰金)が適用されることもあります。

■自転車に関する取り締まり

自転車は、専用の道路が設けられている場合は、原則としてそこを通行しなければなしません。歩道は、歩行者専用の安全通行エリアであり、道路標識などで自転車の走行が許可されている場合のみ通れます。また、歩行者の通行を妨げる場合には、一時停止の義務があります。自転車の走行がに止められていない歩道上で、自転車と歩行者との事故が起きた場合には、自転車に全面的な過失が認められることとなります。信号無視や一時不停止、無灯火、酒酔い運転など悪質・危険な違反については、取り締まりも厳しくなっており、積極的に検挙、適正な処分がなされることとなっています。

■自転車の保険

自転車には自賠責保険のような強制加入の保険制度はありません。そのため、自転車事故が起きた場合に被害者が救済されないことがあります。自転車とはいえ、相手を死傷させれば、加害者は高額の賠償責任を負うことになりますが、一個人では限界があります。自転車に乗る人は万一の事故に備えて、損害保険会社で取り扱っている自転車保険や個人賠償責任特約に加入しておくといいでしょう。

※兵庫県では全国で初めて、自転車保険の加入が条例で義務化されました(2015年4月から施行)。罰金はありませんが、県内で自転車を利用するすべての人が対象で、未成年者の場合は保護者が、仕事で使う場合は企業が加入するように義務付けられています。

■TSマーク付帯保険

TSマークは、自転車を安全に利用知ってもらうための制度で、自転車安全整備士が点検、整備済みの自転車貼付されるシールです。傷害保険と賠償責任保険の2つがセットになった一年間の付帯保険が付いています。青色マーク(第一種)と赤色マーク(第二種)があり、補償内容が違ってきます。TSマークの付いた自転車安全整備店の看板のあるお店で取り扱っています。

 

過失相殺とは

交通事故では、加害者が100%悪いというケースは稀です。被害者にも何らかの落ち度が認められ、その過失の割合によって賠償額は減額(相殺)されます。必ずしも全損害賠償額が支払われるわけではないのです。人身事故でも物損事故でも考え方は変わりません。実際のところ、損害賠償額の算定では、過失割合の認定が大きな要素になっています。保険会社は、必ず過失相殺を主張してきます。

■過失割合の認定_自賠責保険の場合

被害者に重大な過失がある場合(70%以上の過失)のみ減額されます。

・後遺障害または死亡事故_過失により、20%、30%、50%の過失相殺率が適用されます。

・後遺障害を伴わない傷害事故_20%の過失相殺率が適用されます。

■過失割合の認定_任意保険の場合

重過失に限らず、すべての過失について相殺し、賠償額を減額提示してきます。(自賠責保険で補償される部分についても過失相殺の計算をします。)過去の判例をもとにした過失割合認定基準を参考に、事例ごとに過失割合を判断します。最終的に、示談交渉や裁判で過失割合が決まります。現場検証をした警察が過失割合を決めてくれるわけではありません。

■「弱者優先」_過失割合を決める基本的な考え方

大型車よりも小型車、小型車より歩行者が、過失割合の数字は有利になっています。また、狭い道の通行車より広い道の通行車が、同じ道幅であれば左方からの進行車が優先されます。事故のケースを細かく分類して、約340例の基本の過失割合やその修正要素の割合が示され田物(過失割合認定基準)が作成されています。

■過失割合の修正要素

基本的な過失割合に、その事故特有の修正要素(加算・減算要素)を加味し、過失割合が決まります。

<著しい過失>事故のケースごとに想定されている程度を超えるような過失を言います。酒気帯び、脇見運転、携帯電話の通話、時速15㎞以上30㎞未満の速度違反、バイクの場合のヘルメット不着用、自転車での二人乗り、無灯火など。

<重過失>著しい過失よりも重く、故意に等しい重大な過失を言います。酒酔い、居眠り、無免許、時速30㎞以上の速度違反、過労などで正常な運転ができない場合、自転車の両手ばなし運転など。